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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)221号 判決 1966年4月06日

主文

一  原判決をつぎのとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人が控訴人に金四、六二〇、〇〇〇円を支払うのと引換えに別紙添付目録記載の建物部分を明渡し、かつ、同目録記載の土地を引渡せ。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中、第一審の訴訟費用は控訴人の、第二審の訴訟費用はこれを二分し、その一を控訴人のその余を被控訴人の負担とする。

本判決第二項は仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は、つぎに付加するほか原判決事実摘示(ただし、添付目録の建物の欄のうち、斜線部分二二・〇五とあるのは、斜線部分二二・〇五五坪の誤記と認める。)と同一であるからこれを引用する。

控訴代理人は、当審においてつぎのとおり述べた。

一、仮に従来の主張が認められないとしても、控訴人は昭和二四年末頃訴外中島松吉から本件土地を含む二八坪八合九勺六才の借地権を譲り受け、その頃被控訴人の承諾を得た。

二、仮に右主張が認められないとしても、控訴人は本件土地の賃借人である右訴外人から、昭和二五年一月一日以降本件土地の転借をうけ、その頃被控訴人の承諾をうけたものである。

三、以上の次第で、被控訴人の主張するように訴外中島松吉が本件土地を被控訴人に返地したということはない。

四、仮に控訴人の主張がすべて認められないなら、控訴人は、昭和四〇年一月二〇日の口頭弁論期日において、被控訴人に対し、本件土地ならびに隣地に跨り所在する別紙目録記載の建物のうち本件土地上にある建物部分(別紙図面黄色部分)について、借地法第一〇条に基づいて、時価金四、六二〇、〇〇〇円で買取るべきことを請求した。したがつて、右金員の支払あるまで本件建物の明渡を拒絶すると述べた。

立証(省略)

被控訴人は、当審においてつぎのとおり述べた。

一、控訴人主張の借地権譲り受け、およびその承諾の事実、ならびに本件土地転借およびその承諾の事実はいずれも否認する。

二、控訴人の買取請求を主張する建物は、被控訴人の所有する本件土地より他人の所有地に跨り所在するものである。被控訴人が明渡を求める土地および収去を求むる建物は、土地については原判決添付目録記載の二二・〇五五坪であり、建物については同目録記載の二二・〇五五坪である。

三、控訴人は本訴において買取請求を主張するも、訴外中島松吉は、被控訴人が収去を求める本件建物二二坪五勺五才の敷地を含む二八坪分について、昭和二四年一二月三一日これが借地権を放棄している。したがつて控訴人の買取請求は失当である。また控訴人主張の時価は否認する。と述べた。

立証(省略)

理由

一、被控訴人が原判決添付目録記載の土地を所有すること、控訴人が昭和二四年五月二一日右土地を賃借した事実のないことについては、当裁判所の判断も原判決の理由と同一であるから、原判決の理由をすべて引用する。(原判決理由第一、二項)当審証人島藤延造の証言も右認定を左右するものではない。

二、控訴人は、賃借人である訴外中島松吉から、本件土地を含む二八坪八合九勺六才の土地の賃借権を昭和二四年末頃譲渡をうけ、その頃被控訴人の承諾を得たと主張するのでこの点を判断する。

(一)  賃借権の譲渡について

成立に争のない甲第一号証、第四号証、第六号証の一、二、乙第一号証の七、第二号証の一ないし八、第五号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第四号証、第六号証の一、二、原審証人中島松吉(第一、二回)の証言の一部(ただし後記措信しない部分を除く)、原審証人平野佐源司、当審証人島藤延造の各証言、原審における被控訴人および控訴人各本人尋問の結果、当審における鑑定人郡富次郎の鑑定の結果を総合するとつぎの事実が認められる。

訴外中島松吉は、被控訴人から本件土地を含む数十坪の土地を賃借し、本件土地を含む土地上に被控訴人の主張する第一、第二建物を所有していたが、昭和二四年三月頃右第一建物とその敷地約一七坪の借地権を控訴人に、第二建物とその敷地一〇坪余の借地権を訴外島藤延造に譲渡し、夫々その登記手続をなした。控訴人は同年五月頃右島藤から右建物と借地権を譲り受けた。中島松吉は賃借権の譲渡について被控訴人の承諾を求めたが被控訴人がこれに応じなかつた。控訴人が第一、第二建物の増改築をするについて被控訴人の承諾を得ようとしたが、被控訴人は承知しなかつた。このため中島と控訴人との間で賃借権の譲渡を一時解消してこれを中島に返還し、中島が従前どおり被控訴人から賃借し控訴人がこれを転借することとした。中島が右増改築について坪数一七坪として被控訴人の承諾を受けた、この増改築工事は同年八月頃完了した。ところが、右承諾については被控訴人が中島松吉の代理人として出向いた控訴人に坪数と使用権者の欄を空白にした承諾書を交付したところ、建築代理人が適宜に坪数として四六坪五合、使用権者として控訴人名を記入して建築申請に使用したことから紛争が生じ、同年一二月頃中島松吉が控訴人に対し借地関係から離脱する、すなわち、転貸借を解約し借地権を控訴人に譲渡する旨の意思表示をなし、控訴人も暗黙のうちにこれを承諾した。そして控訴人が被控訴人に対し昭和二五年一月から借地権者であると主張して賃料を供託している。被控訴人は当時から控訴人の本件土地使用を拒絶し賃借地の譲渡を承諾していない。右のとおり賃借権の譲渡について被控訴人の承諾がないから、右主張は理由がない。

三、控訴人は、中島松吉から昭和二五年一月一日以降本件土地を含む宅地二八坪八合九勺六才の転借を受けその頃被控訴人の承諾を得たと主張するが、これを認めるべき証拠はない。かえつて、前段認定のとおり転貸借は昭和二四年一二月頃合意解約されている。右主張は理由がない。

四、控訴人の買取請求について

(一)  控訴人が昭和四〇年一月二〇日の口頭弁論期日において昭和四〇年一月二〇日受付の準備書面を陳述して別紙目録記載の建物のうち別紙目録記載の建物部分について、金四、六二〇、〇〇〇円で被控訴人に対し買取請求をしたことは本件記録に徴し明らかなところである。

(二)  成立に争いない乙第一号証の一、七、九、一一、原審証人中島松吉(第一、二回)、平野佐源司、当審証人島藤延造の各証言、当審における鑑定の結果、原審における控訴人被控訴人各尋問の結果によれば、第一、第二建物は平家二戸建一棟建坪二三坪七合五勺であつたこと、被控訴人が敷地の賃借人である中島松吉に前段記載のとおり昭和二四年五月第二建物の一部を取りこみ第一建物を一三坪余に改造しその上に二階九坪を増築することの承諾を与えたこと、この工事が同年八月頃完了したこと、右一棟の建物は建ぺい率の関係から建坪の増加はできないこと、昭和三〇年頃控訴人が裏側隣地を借り受けて二階および裏側に増築し、第一、第二建物は建坪二八坪八合三勺、二階坪三〇坪三合三勺の別紙目録のとおりとなつたこと、この建物のうち被控訴人所有土地に存する部分が別紙目録の階上階下二一坪六合一才であること、先の二三坪七合五勺の建物は裏側の一部分、すなわち、建坪二一坪六合一才を超える部分が当時から裏側隣地にあつたことが認められる。

ところで、昭和二四年八月の増改築については被控訴人が中島松吉に承諾を与えているから右増改築された建物は中島が権限によつた建物として買取請求の目的となるとみられる。そして、その後被控訴人所有の本件土地上に二階一二坪六合一才(二一坪六合一才から九坪を控除したもの)が増築され、一階については増築がないわけである。右二階一二坪六合一才は建物の一部となつており、これを撤去するときは家屋の価値を著しく減少することは家屋の模様から推察されるので、この二階部分も買取請求の範囲に入ると解するのが相当である。

したがつて、被控訴人の所有土地にあつて買取請求の目的となるのは右階上階下二一坪六〇一の建物部分である。

(三)  前記鑑定の結果によると、昭和四〇年一月二〇日当時における前認定の第一、第二建物(現況木造瓦葺二解建店舗一棟建坪二八坪八合三勺二階三〇坪三合三勺)の借地権を含まぬ建物価格は、控訴人の使用する現状のままの価格が金四、九八五、〇〇〇円、空家にした場合の価格は金七、四八五、〇〇〇円と評価されていることが認められ、被控訴人の土地上に存する建物部分の価格は右価格に対し、建物の総坪数五九坪一合六勺と買取請求をする建物部分の総坪数四三坪二合二才の比率をかけた価格と評価されるが、控訴人は時価を四六二万円と主張しており、買取請求権を行使する時は空家にして引き渡すのが通常であること、その他弁論の全趣旨を総合し、時価は四、六二〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

以上認定事実によると、別紙目録記載の建物部分(別紙図面黄色部分、建坪二一坪六〇一、二階二一坪六〇一)は、控訴人の買取請求により被控訴人に所有権が移転し、被控訴人は控訴人に対し買取代金として金四、六二〇、〇〇〇円の支払義務を負うに至つたものである。

五、被控訴人は、訴外中島松吉が、本件土地の借地権を控訴人らに譲渡する以前に、被控訴人に対し右借地を返還した旨主張する。しかし原審証人中島松吉の証言によるも、被控訴人主張のような返地の事実は認められず、原審における被控訴人本人尋問の結果は前記二において認定に供した右証拠に照らし措信できなく、その他に右事実を認めるに足る証拠はない。

六、被控訴人は、本訴において控訴人に対し、建物を収去してその敷地の明渡を求めているが、前記認定のとおり、控訴人の買取請求権の行使により被控訴人所有土地上の建物部分の所有権は被控訴人に帰属するに至つたので、被控訴人としては建物を収去して土地の明渡を求める理由はなく、控訴人に対し買取代金を支払つて建物の明渡とその敷地の引渡を求め得るに過ぎない。

七、控訴人は、本訴において、買取代金として金四、六二〇、〇〇〇円の支払をうけるまで、本件建物を留置すると主張しているから、被控訴人は右金員を支払つて別紙目録記載の建物部分を控訴人から明渡しをうけ、且つ、その敷地部分である同目録記載の土地の引渡をうけ得るものである。

よつて、右と異る原判決を変更して、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条第九二条の規定を仮執行の宣言について同法第一九六条の規定を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

一、建物

東京都墨田区寺島町七丁目八〇地

家屋番号 同町五九三番

一、木造木羽葺平家建店舗居宅 一棟

建坪 一五坪二合五勺

同所同番

家屋番号 同町五九三番三

一、木造木羽葺平家建店舗居宅 一棟

建坪 一一坪

(現況は、右二棟の建物が合併増築され左記一棟の建物となつている。

一、木造瓦葺二階建店舗居宅 一棟

建坪 二八坪八合三勺

二階 三〇坪三合三勺)

のうち、建坪二一坪六合一才(別紙図面黄色の部分)とその二階二一坪六合一才

二、土地

右の敷地、二一坪六合一才

<省略>

<省略>

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